名古屋高等裁判所 昭和56年(く)25号 決定 1981年3月10日
少年 O・S(昭四○・六・一五生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、附添人弁護士○○○名義の抗告状に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、少年を初等少年院に送致した原決定の処分が著しく重きに過ぎて不当である、というのである。
所論にかんがみ、関係記録を調査して検討するに、証拠に現れた諸般の情状、とくに、本件は、少年が原判示の共犯少年らとともに、少年が通学する中学校内で敢行した同級生の男女生徒ら及び同校三年学年主任の教諭に対する執ようきわまる暴力事犯であつて、該犯行の態様、該犯行中における少年の役割・地位、それに至るまでの少年の同中学校における行状、非行歴をはじめ、少年の性格、資質、家庭環境及び少年に対する従来からの補導教育の経過等に徴すると、少年の非行性は相当顕著であつて、少年の保護者にはかかる少年を保護するに足りる能力は認められない。このような事情を総合考察すると、少年の犯罪的・反社会的性格傾向を矯正し、併せて少年をして相当の社会適応能力を習得させるために少年を初等少年院に送致する旨の処分をした原決定の措置は、これを相当として是認せざるを得ず、所論のうち、少年の就職先がすでに内定していることなど、少年に有利な一切の事情を十分に斟酌しても、原決定の処分が所論のごとく著しく重きに過ぎて不当なものであるとは認められない。論旨は理由がない。
よつて、本件抗告は、その理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条に則り、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 早瀬正剛 土川孝二)
抗告申立書<省略>
〔参照〕原審(名古屋家岡崎支昭五六(少)三七号昭五六・二・一二決定)
主文
少年を初等少年院へ送致する。(一般短期処遇課程勧告)
理由
(非行事実)
司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実(但し、一の(一)は除く。)のとおり。
(罰条)
数人共同して暴行を加えた事実につき、暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二〇八条)
数人共謀して傷害を与えた事実につき刑法二〇四条、六〇条
(処遇の理由)
本件は、いずれも集団の威を借りて弱い立場にある被害者に対し執拗なまでに暴行を振つており悪質な事案であるうえ、少年は、いわゆる副番長として積極的に行動しており、少年の責任は重い。また、本件事案は、いずれも校内暴力の事案であるが、すでに学校教育の自主性・自立性に委ねる限界を超えており、少年の交友関係も不良有職少年にまで及んでいる。その他、本件が校内他生徒、父兄などに与えた影響並びに当庁調査官○○○○作成の昭和五六年二月五日付少年調査票にみられる少年の生活史、保護環境、名古屋少年鑑別所作成の同月九日付鑑別結果通知書記載の少年の性格、資質等を総合すると、少年の健全な保護育成を期するため少年を施設へ収容し、乱れた生活を集団のわく組の中で矯正し、基本的生活習慣を身につけさせ、かつ、内省を深めさせて規範意識を涵養する必要がある。一方、少年においては、犯罪的額向がそれほど進行していない点を考慮して一般短期処遇課程を勧告することとする。
よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して、主文のとおり決定する。
〔参考一〕司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実
一 被疑少年A、同O・S、同B、同C、同D、同E、同F、同G、同Hは、豊田市立○○中学校に在籍し、右A、O・Sをリーダーとした粗暴的不良少年グループ「○○○連合」の構成員であり有形無形の威力を示し、他の生徒を従わせているものであるが、
(二) 被疑少年A、同O・S、同B、同C、同D、同E、同F、同G、同Hは共謀の上、右D、Eが放送係生徒Iに校内放送でアナーキーのロック調音楽を流せと命じたにも拘わらず、これを放送しなかつたことから立腹し、同人に制裁を加えることを企図し、「バカヤロウ、なんでアナーキーの曲をかけんのだ」と罵声をあびせ別紙一「対被疑者Aほか八名に対する傷害犯罪事実一覧表」(編略)記載の日時、場所、手段方法等により右I一五歳に対し、それぞれ肘で背部を殴打、足で頭部を蹴りあげ、膝で右大腿部を蹴るなどの暴行を加え、よつて同人に対し約一週間の加療並びに経過観察を要する背部・頭部、右大腿打撲傷を負わせ、
(三) 被疑少年A、同O・S、同B、同D、同Eは前記被害者Iが教師らに校長室へ保護されて行つたのを知り、更に同人に制裁を加えることを企図し、共謀の上集団で同校長室に押しかけ、別紙二「対被疑少年Aほか四名に対する暴力行為等処罰に関する法律違反犯罪事実一覧表」(編略)記載の日時、場所、手段方法等によりソファーに腰掛けている右I一五歳に対し、こもごも靴を右手に持ち頭部を殴打、ビニール製ベルトで頭部を殴打、靴履の土足で肩部を蹴るなどの暴行を加え、もつて数人共同して暴行を加え
たものである。
二 被疑少年A、同O・S、同B、同C、同D、同E、同F、同Hは、豊田市立○○中学校に在籍し、右A、O・Sをリーダーとする粗暴的少年グループ「○○○連合」の構成員であり、同校教師の教育指導を無視し校内においても問題行動の多い生徒であるが、
(一) 被疑少年A、同O・S、同B、同D、同Eは共謀の上、日ごろから自分達の問題行動について注意指導をしている同校三年学年主任Jに対し反感を抱き、同人に制裁を加えることを企図し、別紙一「対被疑者Aほか四名に対する暴力行為等処罰に関する法律違反犯罪事実一覧表」(編略)記載の日時、場所、手段方法等により、右J四二歳に対し、こもごも「俺達が以前女をたたいたことを警察に言つたのはお前だろう、文化祭のためのバンド練習時の注意の仕方が悪い」等と言つて因縁をつけ「バカヤロー立て、足がないのか担架で運び出すか、けが人が出るかも知れん」と言つて脅迫し、座ぶとんを投げつけたり、右足で左腕を蹴つたり、胸倉をつかんで廊下へ引張り出して、手拳で胸部を殴打又は足蹴りにするなどの暴行を加え、もつて数人共同して暴行を加え、
(二) 被疑少年A、同O・S、同B、同C、同D、同E、同F、同Hは共謀の上、前記被害者Jが他の教師らに救出され、一旦職員室へ引き上げて行つてしまつたのに不満を抱き、更に徹底的にやつつけてやろうと企図し、別紙二「対被疑者Aほか七名に対する傷害犯罪事実一覧表」(編略)記載の日時、場所、手段方法等により職員室から運動場に逃げだして来た右J四二歳に対し、肩部を押えつけ腹部及び胸部を膝蹴りするなどの暴行を加え、よつて同人に対し、約一四日間の加療並びに経過観察を要する右第六肋骨骨折、外傷性肋間神経痛の傷害を負わせ
たものである。
三 被疑少年O・S、同K子、同L子、同M子は豊田市立○○中学校三年生として在籍するものであるが、同校の同級生である被害者N子一五歳及びO子一五歳が右L子の悪口を言つたことに立腹し、四人共同して制裁を加えることを企図し、別紙「対被疑者O・Sほか三名に対する暴力行為等処罰に関する法律違反犯罪事実一覧表」(編略)記載の日時、場所、手段方法等により、右N子及びO子に対し、こもごも手拳で顔面を殴打又は腹部を足蹴にするなどの暴行を加え、もつて数人共同して暴行を加えたものである。
〔参考二〕初年調査票<省略>
〔参考三〕鑑別結果通知書<省略>